【 注 意 】
・タナッセ友情A後
・仮定の話と夢の話、タナッセ視点三人称

Pieris rapae





 タナッセって何か、兄さんみたい。
 そう彼女が言ったのは、長椅子の置かれた緑溢れる中庭でだった。親友であるが女性を選んだ彼女がタナッセと共に居すぎるのは外聞が宜しくないと忠告をしている最中、ふと漏らされた一言だ。
 意味は分かるがそこは父母を挙げるだろうと不可解さに眉根を寄せると、彼女は言い換える。
 タナッセ兄様。
 いやしくも寵愛者サマだから兄さんはなかったか、と続いたが全く見当外れだ。
 賢い彼女はタナッセに比べ貴族社会を上手くかいくぐって生きているのに、考え過ぎなのか本当に莫迦なのか、素っ頓狂な言動をすることもある。以前、舞踏会で失敗していた彼だった彼女に対し問うたことがあった。舞踏会での立ち回りはどうすべきか、と。散々考えた末輝く瞳はこう答えた。頑張る。
 今の反応にも同じ感覚を得、タナッセは曲がりなりにも大人になったのだから相手の意図をきちんと捉えろと注意しておく。
 タナッセは母さんじゃないし、父のことは知らないけど、仲のいい兄弟は村でもよく目にしたから、兄様。年の差も同じようなものだ。
 そこまで言って彼女は少し俯いた。睫毛の長さを改めて思い知るタナッセに呟きが届く。もっと早くに見つかっていたら良かった、と。次いで、夢見るようにまた続柄を口にした。
 垂らされた黒髪がベールとなって表情は分かりにくく、しかし声音は隠しようもなく耳から胸へ滑り込む。同意する気持ちは確かにあった。肯けないのは未分化だった当時の彼に対して不埒な夢を見てしまった経験からだ。告白もされたが、それより以前に、だ。
 いつもう一人が見つかったか、によって関係は異なっていただろう。親友のそれを見る前に見てしまった夢も、あるいは――
 思考を意識して止めて、タナッセはいつでも伏し気味で形容しがたい趣を持つ瞳からも目を離した。
 ねえ、と親友の、未分化の頃の男性的にも感じられた言い切り系とは打って変わった、童話に出てくる無垢の乙女に似た口調がぼんやり呼びかけてくる。
 ねえ、気が済むまでタナッセ兄様って呼んだりしたら、駄目?
 許可など出来ない。タナッセに即答されれば、しょうがないよねと残念の薄い納得が返された。だが、彼女の思ったろう理由で断ったものではなかった。見てしまった夢も、今こうして目の前にある彼女が覗かせる愚かな脆さを守りたいと思う己も、兄の呼称になど相応しくなどない。
 盛大なため息と共に頭を抱えたい心地のタナッセの目の前を、小さな蝶が踊るように中空を飛んでいく。蒼天を行くほど高くはないが、頼りなくも確かに羽ばたいて。その色は、ちょうど彼女が羽織る肩掛けと同じ真白だった。










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夢の欠片でウンタカター(仮名)さんに頼る主人公は
ブログに挙げてる分だと現状レア設定ですね。